30代の頃、稼業であるホテルの運営をサポートしていた時期があります。

ホテルは稼働率90%以上。朝食が美味しいとテレビでも取り上げられるなど、全国チェーンのホテルが増える中でも、家族経営として頑張っていました。

私は「もっと良くなる、いや良くしたい!」と思い、サービス向上のためにコーチングや大手研修会社のマナー研修、社員の個別コンサルティングなどを続々と導入しました。これをやれば、売上も上がり、お客さまも喜び、スタッフの成長にもつながる。そう信じていたからです。
ところが結果は予想外なものでした。

社員が次々と退職し、最終的に6名が辞めてしまったのです。ある人から言われた言葉が、今でも忘れられません。「貴恵さんには、ついていけません」
私は戸惑いました。

「なんでわかってくれないの?」「私は良いことをしている、いずれ給料にも還元できるのに」
けれど振り返ってみると、そこには大きく欠けていたものがありました。
それは「対話」です。

私は制度や研修を整えることに一生懸命で、現場の人たちが何を感じているのか、どんな不安や戸惑いがあるのかを、十分に聞けていませんでした。本で読んだ知識、セミナーで学んだノウハウをやれば成功する!と思い込んで押し付けていました。

有難いことに、辞めたスタッフとは喧嘩別れになったわけではなく、その後に入った社員は誰一人辞めることなく働き続けてくれました。この経験から、組織を変えるときに本当に大切なのは、人が安心して言葉を交わせる「対話の場」なのだと学びました。

現在は企業や教育機関などで、対話型ワークショップやファシリテーションを行っています。

制度や研修だけでは解決できないコミュニケーションの課題に対して、対話が一つのきっかけになることを、現場で実感しています。